TKC 小出絹恵税理士事務所

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過去の執筆原稿より

決算書の信用力をアップする方法2005年11・12月合併号

中小企業の悲願だった、「無担保、社長の個人保証なし」
という融資がついにできました。その前提は決算書の内容と信用力です。
今月は、決算書の信用力を高める方法について取り上げます。

決算書を金融機関から見たら

「私もかつて見事に騙されたことがあります。」とは、ある金融機関の融資課長さんから伺った話です。

会社が融資申込みにあたって金融機関に提出した決算書が、税務署に提出された決算書ではなく、負債を過少に記載した虚偽の決算書だったそうで、決算書を信じて融資を実行したところ、実は、別の銀行からの借入金がそっくり脱漏していたのだそうです。

架空売上を計上したり、棚卸しを過大に計上するなどは、会社の業績を少しでも良く見せようとして行われる粉飾方法です。

銀行マンも、そういうことを度々経験すると、決算書を疑いの眼で見るようになってしまうのですね。残念ですが、やむをえないことかもしれません。
金融機関としては、会社の決算書を自行の財務分析システムに入力して、数字の読替作業や分析をした上で、正味財産や収益力を算出し、融資の可否判断をしているわけです。

その結果、「粉飾の疑いあり」とされる決算書も出てくるわけです。

決算書の信用力を増すために!

10月28日の日本経済新聞朝刊一面トップに「中小企業融資/無担保、個人保証も免除」という記事が掲載されました。
ある大手都市銀行が、「担保も経営者個人の保証も求めない中小企業向けの新型融資を大手銀行で初めて導入する方針を決めた。」という記事です。
上記新型融資は、来年5月をめどに施行される新会社法に、新たに盛り込まれることが決定している「会計参与制度」を採用していることが条件の一つとなっています。

会計参与制度

「会計参与制度」というのは、今回の商法改正で新たに設けられた会社の機関(役員)です。
株主総会で選任します。

具体的には税理士、公認会計士その法人がそれに該当します。取締役・執行役と共同して決算書を作成し、会社とは別に、その決算書等を保存し、株主・会社債権者に対して開示することが求められています。
現在、顧問契約を結んでいる税理士に、重複して「会計参与」になってもらうことも可能です。

会計参与に期待される役割は、一番には「取締役・執行役による計算書類の虚偽記載や改ざんを抑止し、計算書類の記載の正確さに対する信頼を高めること」にあると思います。
会計参与の会社に対する責任は、株主代表訴訟の対象となりますし、第三者に対して損害賠償責任を負うことすらあります。

会計参与になる税理士・公認会計士にしてみれば、会計参与には損害賠償のリスクがありますから、当然に社長との信頼関係が前提となります。それだけに、金融機関からみたら、会計参与が付いている会社の決算書は信頼性が高いということになるわけです。

税理士法33条の2による「書面添付」

これは、税理士又は税理士法人が、
「税務申告書の作成に関し、計算し、整理し、相談に応じた事項を記載した書面を添付することができる。」
という税理士法に規定された制度です。

文言だけ読めば、これがどういう意味を持っているのかと言えば、
この制度は、適法な判断を行っていない場合には、税理士が業務停止等の懲戒処分を受けるという側面を持っており、税理士はそれなりの覚悟を求められる制度でもあります。

この書面添付が行われている申告書については、税務当局も書面添付をしている税理士を尊重して、税務調査をしようとした場合には、調査に先立って、税理士に意見を求め、それによって、疑義が晴れれば、調査が省略されるという扱いになっています。

書面添付により、納税者と税理士との信頼関係が一層醸成され、書面添付された申告書は、計数面での信頼性を高め、金融機関等からの評価を大きく高めています。例えば、いくつかの金融機関の個別融資商品で、書面添付を条件に金利を下げる扱いをしているものもあります。

中小企業の会計に関する指針

今年の8月3日、日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所、企業会計基準委員会が共同で、中小企業向けの会計処理の方法を取りまとめ「中小企業の会計に関する指針」として公表しました。

これは、“前向きな中小企業にとって、信頼性のある計算書類が有用となってきたこと”、
自社のホームページ等による計算書類の公開が可能となったこと、
税効果会計や退職給付会計など新しい会計基準の中小企業への適用が不明確であったこと
などから、中小企業の望ましい会計のあり方について検討が加えられてきたものが、来年度の「会計参与」制度導入を前に統一されたものです。

これも、中小企業の決算書の信用力を高める ためには、その決算書がどのような会計処理の方法によって作成されているのかの指針を示す必要があったからです。
「会計参与制度」も「税理士法33条の2の書面添付制度」も「中小企業の会計に関する指針」も、
すべて、中小企業の決算書の信頼性を高めるために設けられた制度です。

これらの制度を積極的に活用して、自社の決算書の信用力を高めてみては如何でしょうか。

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金融機関の決算書の見方2005年10月号

金融機関は会社をどのように評価しているのでしょうか。
今月は、身近な信用金庫が会社の決算書をどのようにみているのかについて、お知らせ致します。

格付け

金融機関が貸付先を信用リスクに応じて格付けしていることは、すでにご承知のとおりです。都銀さんばかりではなく、信金さんも同様です。
金融機関は貸付先を、
1正常先
2要注意先
3要管理先
4破綻懸念先
5実質破綻先
6破綻先
の6つに分け、さらにそれぞれを金融機関の基準で区分して格付けを行っています。

金融機関が貸付けを行うのは、
@正常先」に区分された会社です。
A要注意先」も審査がより厳しくなりますが、融資の可能性はあります。

しかし、
B(要注意先の中の)要管理先」以下に区分されると、まず新たに融資を受けることは困難となります。

今や金融機関は、企業の格付けによって、融資の可否、貸付金利、融資期間、担保や保証人の有無等の融資条件を決めているのです。
したがって、融資を受けたいと思っている会社はもちろんのこと、将来融資を受ける可能性のある会社、また現在融資を受けている会社にとっても、自社の格付けをアップすることは大変重要なこととなるわけです。

決算書はこのように読み替える

ところで、格付けのもとになるのが決算書です。金融機関は既存の貸付先については、年に1度、その会社の決算後に企業の格付けを見直しています。金融機関が決算書を求めてくるのはそのためです。

先日、世田谷区と目黒区に本店のある信用金庫さん4行に、訪問懇談させていただく機会があり、金融機関の決算書を見る姿勢を伺うことができました。
金融機関は、信用リスクに備えながらも、融資チャンスは逃したくはないというのが本音だと思います。
格付けについては、金融機関ごとに違いがあるように感じました。中小零細企業の特徴を加味して審査しているという信金さんもあれば、中小零細企業にそこまで要求するのかと思われるような水準を求める信金さんもありました。
いずれにしましても、“過去の取引実績を強調して、義理人情浪花節的対応を求める”のは無理な時代になったのだと感じました。

やはり格付けの基となるのは、決算書の数字。数字が格付けの8割を占めています。
(残りの2割は、数字では表しきれない部分を評価する定性分析といわれるものです。)

このように、なんといっても決算書の数字が重要です。
しかし、信金さんも会社が提出した決算書をそのまま使ってくれるわけではないのです。信金の審査システムと手間とを使って、決算書を読み替える作業をしています。資産の実在性や不良資産となっているものがないか等を検討し、その不良資産を資産勘定から除くのです。その結果、債務超過におちいってしまう場合もあるといいます。
融資審査の方々が共通して言われていたことが、「本当の決算書」「真正な決算書」「信頼できる決算書」という言葉です。
決算書を重視しているからこそ、その決算書の信用力が問題とされるのだと思います。

では、具体的に金融機関の決算書の見方について、以下に具体的に見ていくことにしましょう。

1.正味財産を算出する。

財産の実在性のチェック

●売掛金
売掛金の実在性は、決算書を3期分比較することによって、「回収可能な売掛金か否か」「架空債権ではないのか」等の視点で見直すとのこと。
売掛金の明細に「その他取引先」としてまとめられているものは、その実在性が疑われます。

●棚卸商品
棚卸品も実在性の把握が大切。商品回転率や粗利などの数字から商品在庫を計算して、会社の決算書の金額と比較するなどして検証してみるそうです。
場合によっては、「担当者に、『会社に行って、棚卸商品を見せてもらえ。』と指示することもある。」ということもお聞きしました。

●仮払金など
多額な仮払金は、社長の個人的支出に当てられたものか、経費の支払いを仮払金として処理しているのではないかと疑ってみるとのこと。

同様に「●前渡金●立替金●未収入金●前払金●前払費用●短期貸付金」なども、資産性が弱い資産です。できるだけ決算前に可能な限り精算できるものは精算し、金額を圧縮しておくようにしましょう。

●有価証券 ●ゴルフ会員権 ●土地 ●建物
決算書には取得原価で記載されていますが、時価はどうでしょうか?

負債が自己資本に

●借入金
役員からの借入金については、長期返済実績がない場合などは、実質的に自己資本と同様に考えて差し支えないという取り扱いになっています。
役員や株主からの借入金は、漠然と「短期借入金」に表示したままにしておくということなく、積極的に長期借入金の部に「株主借入金」や「役員借入金」として区分表示するようにしましょう。


知らないで損していることのないように、自社の財務状況を正しく金融機関に伝える積極的な方策を。

続きはまた来月!


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地震保険2005年9月号

会社のリスクマネジメント

9月1日は、関東大震災のあった日です。
まさか東京に大地震は来ない、いや来ないで欲しいと願っているのですが・・・???
今月は、リスクについて考えます。

地震保険

最近、地震が多いですね。関東大震災級の大地震がいつ起きても不思議ではないと言われ続けている東京に住んでいるものとしては、ただ手をこまねいているわけにもいかず、取り敢えず火災保険に地震特約を付けています。
通常の火災保険金額の半分までしか掛けられないのに、保険料は高いですね。

例えば────

木造モルタル100uの居宅に保険金額2,000万円の住宅総合保険をかけた場合
⇒保険料は1年間で33,200円です。

この火災保険に地震特約を付けた場合には、保険金額1,000万円で
⇒保険料は年間35,500円になります。

地震保険の保険料は火災保険の約2倍の保険料となるわけです。この保険料から見ると、それだけ地震のリスクが高いともいえます。

しかし、火災保険には入られる人でも、地震保険には入っていないという方も多いようです。
「地震はいつ来るか分からないし、来ないことの方が多そうだし・・・・。保険料がそんなに高いのだったら、地震保険は付けなくても。」とお考えになるようです。
でも、そもそも保険は、万が一に備えるためのものですよね。

ところで、地震保険は、住宅や家財にしか掛けられないということをご存知ですか?
会社のOA機器に掛けている火災保険に、地震保険を付けようとしても、事業用の物(事務所や店舗、会社の備品や設備等)には原則として地震保険は掛けられないのです。

生命保険

物に関するリスクに備えることはもちろんですが、何よりも大切なのは「人」です。社長に万が一のことがあったら、会社の存続すら危ぶまれることにもなりかねません。

この痛手を少しでも和らげるために、社長を被保険者として、会社の負担で生命保険に加入するということになるわけです。
ところで、会社が保険料を負担する場合には、保険金の受取人、掛ける保険の種類等によって、税務の扱いが変わりますので、注意が必要です。

会社が保険料負担者被保険者は社長保険金受取人は会社という形で掛け捨て型の生命保険契約に加入した場合には、支払った保険料は損金に、受け取った保険金は会社の益金になる
というのが一般的です。(保険の種類によって1/2損金タイプ等がございますので、確認して下さい。)

万が一の場合には、保険金が会社に対して支払われ、会社はこの保険金によって、債務を返済したり、退職金を支払ったりすることができるというわけです。

退職金は会社にとっては、損金になりますし、受け取った側からみれば、
死亡退職金の非課税枠が、相続人一人当たり500万円、
相続人が三人の場合には、1,500万円を非課税で相続人に残せることになります。

また、これとは別に、社長が個人で加入していた生命保険契約があれば、
生命保険金の非課税枠が別途相続人一人当たり500万円、
相続人三人であれば、1,500万円あります。

相続税のかからない現金を残すことができるというのは、相続対策としても大変有効だと思うのですが・・・。

会社が被害者とならないために

騙しのテクニックが巧妙になってきています。被害に遭わないために、最近あった実例をご紹介致します。

/取り込み詐欺の例/

あるショップで実際に受けた被害です。

@金曜日に電話で商品の注文を受けました。
A初めての取引なので、店側は入金を先にしてくれるように顧客に依頼しました。
B顧客からは振込みをした旨の連絡と振込票のFAXが送られてきました。
C店側は、午後3時を過ぎていたために、銀行への入金確認はできなかったため、店側は銀行への振込票のファックスを確認して、商品を発送しました。
D店側が月曜日に通帳記帳に行ったところ、振込まれていた金額は、なんと1円だけでした。振込票が偽造されたものだったのです。

この詐欺のポイントは、振込の確認が月曜日の朝までできなかった点にあります。
振込みは午後3時以後でも(午後6時まで)できますが、入金は翌営業日、つまり月曜日の扱いになるため、入金の確認がすぐにはできません。
電話で顧客は「月曜日までに商品が届くようにして欲しい。」と要望してきており、宅配便であれば、翌日には商品を手にすることができるわけで、店側が入金を確認できるようになる前に商品を手にしてまんまと逃げてしまうということが可能だったわけです。

/情報入手方法、あの手この手/

NTTを名乗って、「○月○日、××丁目××番地にて電話工事を行うため、電話やFAXに障害が出る場合があります。その場合には、116までご連絡下さい。」と、電話がかかってきました。
電話を受けた社員が、はい、はい、と対応していると、そのうちに、
「御社でお使いの電話機のメーカーは?」
「電話の機種名は?」
「電話機は何台お使いですか?」
「FAXは?」
と次々に質問をしてくるのです。

それに答えていていると、結果として、会社の電話設備関係の情報を全て教えることいになってしまうというわけです。

不信に思った会社が、NTTに確認の電話を入れたところ、工事の予定など全く無かったとのことでした。


これは、ほんの氷山の一角です。儲け話も要注意。
俺俺詐欺もそうですが、事前に誰かに相談していたら、防げることもあるように思います。気軽に話せる身近な相談相手を是非沢山お持ちください。

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商法改正2005年8月号

今月は、商法改正について取り上げます。商法改正法案が6月に国会を通過しました。
近年にない大改正といわれる商法改正ですが、何がどう変わったのでしょうか?

有限会社が無くなる?商法改正「会社法」成立

今まで商法の中に入っていた会社の計算に関する規定が、「会社法」として独立した法律にまとめられました。
その根底には、会社の自治を尊重しようとの考え方が一貫して流れています。

今回の改正点のうち、皆様から質問の多い事項について、Q&A方式でまとめてみました。

Q1.有限会社が無くなるって本当ですか?
A1.
新規に設立される会社は有限会社がなくなって、株式会社に一本化されます。だからと言って、現に今ある有限会社が無くなるというわけではありません。既存の有限会社は現在の「有限会社○○○○」という社名のまま、特例的に、現在の有限会社の仕組みがそのまま存続されることになっています。
Q2.新しい商法が適用されるのは来年からだと聞きました。 ということは、施行前ならば、まだ有限会社の設立ができるということでしょうか?
A2.
そういうことになりますね。改正商法は国会で可決されましたが、まだ公布もされていない状況です。法律は公布されてから、施行されるまでにいろいろな規定の整備や準備が必要のようです。施行は来年4月〜5月頃になるかもしれませんね。それまでは現行の法律が適用されますから、施行前までならば、駆け込みで有限会社の設立もできます。
Q3.最低資本金制度がなくなると聞きましたが?
A3.
はい、そうです。近年ブームだった資本金1円で設立した会社も、増資をしなくてもそのままで存続できることになります。
新規に設立する会社も、最低資本金の制度がなくなりますので、資本金はいくらでもよい(1円でも可能)ということになります。
Q4.「会計参与」制度ができたと聞きましたが、それはどういうものですか?
A4.
「会計参与」というのは初めてできた機関(役職)です。会計参与になれるのは、社外の税理士や公認会計士です。会計参与は取締役と一緒になって、決算書を作成します。この会計参与を置くためには、会社の定款にその旨を定め、登記する必要があります。
Q5.取締役の任期が10年になると聞いたのですが?
A5.
取締役の任期は原則として2年間です。しかし、定款に定めることによって、最長10年までに任期を延ばすことができるようになりました。これも、会社自治の尊重です。
Q6.監査役を置かないこともできるようになると聞いたのですが?
A6.
そうです。監査役を置くかどうか、取締役会を設置するかどうか等の、会社の機関(役職や組織)をどのようなものにするかについても、多くが会社の選択に任されるようになります。極端に言えば、取締役一人だけの株式会社というのも可能になるのです。
Q7.当社は現在有限会社です。新会社法成立によって、どのような選択肢があるのでしょうか?
A7.
@現在の社名のまま、特例有限会社として存続する方法と、
A株式会社に社名・組織変更をする方法とがあります。
株式会社にするためには、定款変更と登記が必要です。



今回の改正で、会社の選択の自由度が増しました。資本金制度は残っているものの、その資本金の額については会社の自由です。
株式会社の資本金は1,000万円以上でなければならないという規制はなくなります。資本金は有限会社は300万円、株式会社は1,000万円以上にできなければ会社がなくなってしまう、と必死になって増資したのは何だったのかと言いたくもなってきます。

しかし、これは、商法の考え方が当時と今とで変わって来たということなのです。当時の商法は、債権者保護のために法律で規制するという考え方だったのですが、
今回の改正では
、法律で規制するのではなく、会社の自治に任せるという姿勢に変わったのです。


それは、資本金制度で見てみれば
「最低でも1,000万円の資本金を用意できるくらいでなければが株式会社とはいえないでしょう。」
という考え方から、
「資本金をいくらにするかは会社の自由です。しかし、資本金の額によって、金融機関や取引業者が会社の信用力を判断するかもしれませんね。」
というように規制で信用補完をするのではなく、信用力が高まるような会社にするのか、そういうことよりも、
できるだけ簡単で費用のかからないような会社にしたいのか
等、会社の状況に合わせた機関設計ができるようになっています。
これは、法律での規制はできるだけ控えめにして、あとは会社の自由に任せるという考え方によるものです。

そうなると、会社も取引先も自己責任です。その会社を信用して融資をしたり掛取引や手形取引をしたりする場合には、なおさら会社の情報を正しく知る必要が生じます。

そこで、外部監査を要請されていない会社であっても、会社が任意に「会計参与」を置き、会計参与という社外の会計専門家(税理士や公認会計士)の目を通して、会社の決算を組んだということを明示することによって会社の決算書の信用力を増すことも意味をもってくることになるのです。
(会計参与をおく場合には、株式会社にする必要があります。)

自由が与えられること自社による信用力の補強の必要性が高まるとも言えます。

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想いを伝える遺言2005年7月号

「まさか、こんな風に揉めるなんて!」と、誰もが驚いているのが、元大関貴乃花、藤島親方がお亡くなりになった後の、兄弟二人の不和と相続問題です。
何とも複雑な思いが致します。今月は先月号に引き続いて遺言について考えます。

親の想いを子に伝えることの大切さ

遺言というと、もっぱら財産をどのように分けるのかということについて書き残したものというイメージが強くあります。
確かに、遺言の役割は、財産分けにあると言えます。
多くの場合、子供達が遺産相続で揉めることのないようにとの親心から、作成されることの多い遺言書です。
しかし、中にはその遺言書が、揉め事の種になってしまうという皮肉な結果となることもあるのです。
それは、「そんな遺言書を親父が書くはずがない。」といった場合に起こることが多いようです。こういうことを相続人の誰かが言い出す場合には、それなりに理由があります。それは、別にテレビドラマのような劇的なことではありません。

それは、普段から親御さんが子供達にどのように接してきたかがキーポイントとなるようです。

例えば、「お父さんはいつも、この家は親の面倒をみた長女が継ぐものだと言っていたし、だから、次女や三女である私たちは、結婚の時にすでにそれ相当のことをしてもらっているから。」と言われた三人姉妹の相続人は、相続にあたって、相続財産の全てを長女が相続するという遺産分割協議書にサインをされました。

一見不平等とも見えるこのような遺産分割が、いとも簡単に成立してしまうことが、ままあります。こういう場合は、ほとんどの場合が、生前にお父様が家族全員に対して、財産の承継についての考えをしっかりと伝えておられるのです。

これに対して、生前にお父様が言っていた事と異なる内容の遺言書が出てきたりすると、子である相続人は、「そんな馬鹿な!親父がそんなことを書くはずがない。」ということになって揉めることになってしまいます。
お年を召されると、「子供達みんなから大切にされたい。」という思いや、「どの孫もみんな可愛いし・・・。」との思いが強くなるようです。
その結果、悪気はないのですが、それぞれの子供達のところで、その子に都合の良いような遺産分けの話をされたり、曖昧な返答をしたりしてしまうということが起きるようです。

その結果として、遺言書を開いてみたら、お父様から聞いていた内容と違うということで、先のようなことになり、場合によっては、裁判にまでなってしまうということも起こるわけです。

遺言書に添えて手紙を遺すということ

遺言書とは別に、想いを伝えるために。手紙を書いて、それを遺言書と共に遺すということがあります。
遺言書だけではなく、お父様の想いを伝える手紙を添えるようにアドバイスをする場合もあります。
手紙を書くことで、遺言書だけでは伝わりきらないお父様の想いを、奥様やお子様達に伝えることができるというわけです。

しかし、それは先にも述べましたように、普段からお父様の想いを伝えておかれることが前提です。少なくとも、お父様がそのような遺言書を遺すであろう事が、相続人に理解されるような言動をとっておられることが大切だと思います。
また、その手紙に、奥様やそれぞれのお子様一人一人が、お父様の生前のお姿を思い起こせるような内容が書かれていれば、お父様の想いに導かれて揉めることもないでしょうし、お父様亡き後も、家族みんなが実家に集まれるような仲の良い家族になれる気がします。
花田家の今回の騒動も、どうも、父親の想いが子供達にきちんと伝わっていなかったことに、原因の一端があるような気がするのですが、どうなのでしょうか。

思いやりの遺言

お子さんのいないご夫婦なら、是非遺言書を書いておいて下さい。
それも、お互いにです。

遺言書が無い場合には、夫婦二人で作った財産を相続するために、亡き夫や亡き妻の親、親亡き後は兄弟姉妹にお願いして、遺産分割協議書に印鑑を貰わなければならなくなります。これはしんどい作業です。兄弟姉妹の中には、普段あまり付き合いの無いような場合もあるかもしれません。

こういう事態を避けるために、公正証書遺言を作っておけば、遺言書だけで、登記ができるのです。

兄弟姉妹には遺留分がありませんから、遺言書に全ての財産を夫や妻に相続させると書いても、後のトラブルの心配はありません。
最愛の配偶者を亡くして、身も心も疲れ果てているところに追い討ちをかけるように、相続問題が起こるのです。

「うちには、相続税がかかる程の財産は無いから、遺言書なんて関係ないわ。」とは思わないで下さい。相続税がかかる、かからないという問題ではないのです。

遺言書は、相続を争族としないために有効であるばかりではなく、長年連れ添った夫や妻に対する愛情の表現であり、思いやりでもあると思うのです。ちょっとの手間を惜しまずに、と願うばかりです。

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これだけはやっておきたい相続・事業承継対策!2005年6月号

最近、相続や事業承継対策のご相談をお受けする機会が増えてきました。遺言書を書かれる方も
増えています。それだけ皆様の関心が高いということだと思います。
今月は相続・事業承継対策について考えます。

わかっちゃいるけど・・・

その必要性は感じているけれども、なかなかできないのが相続対策でもあります。
相続が発生してから、
「もう少し、何とかしておけば良かったね。」
「でも、とてもそんなことを言える状況ではなかったから、仕方がないよ。」
という会話を相続人の皆様から伺うことも多くありました。税理士と関わる機会がなかった方の場合に
はなおさらです。
そういうお話を伺う度に、事前にご縁をいただく機会があればと思うのですが・・・。

せめてお客様には、そういう事のないようにしたいと願い、情報提供や事例等のお話をさせていただい
ております。少しでも事前対策を行っていただき、結果として「よかった。」と言っていただけたら嬉しいです。
相続対策は、無理なく行えるのがベストです。それには、長期計画(5年から10年、あるいはそれ以上)
で進めていく必要があります。
相続は財産だけの問題ではなく、財産を残す人、それを受け継ぐ人、その
周囲の人等の人間関係や想いが複雑に絡み合った、極めて人間らしい行為だと私は思っています。そういう
人間っぽいところが、私は好きでもあるのですが・・・。

遺言

遺言を書かれる人が増えています。新聞・雑誌やテレビでもしばしば取り上げられています。トラブルを
未然に防ぐために、遺言書が有効だという認識が広まってきているのだと思います。
では、実際に遺言書を書くにはどうすればよいのでしょうか。

遺言書には一般的(普通方式遺言)に次の3つの作成方法があります。

1.自筆証書遺言

遺言書を書こうと思ったら、すぐに自分一人で書くことができる最も簡単で費用のかからない方法です。
しかし、記載条件や記載方法によっては、無効となるおそれもあります。また、紛失や隠匿の心配も
あります。相続が発生した場合には、家庭裁判所で検認を受ける必要もあります。

2.秘密証書遺言

公証人と証人の前で、自分で書いた遺言書であることを確認して、遺言者・公証人・証人が署名押印
します。遺言書は持ち帰って保管することになるので、紛失や隠匿のおそれがあり、検認も必要となり
ます。公証人の費用は財産の額に関係なく11,000円です。

3.公正証書遺言

これが、一番安心です。私がお客様にお勧めするのもこの公正証書遺言です。公正証書遺言は公証人に
頼まなければならないので、費用がかかります。手数料は下表のとおりです。それと、作成にあたっては
証人二人に同席して署名押印してもらう必要があります。

(公証人手数料)

財産の価額 手 数 料
100万円まで 5,000円
200万円まで 7,000円
500万円まで 11,000円
1,000万円まで 17,000円
3,000万円まで 23,000円
5,000万円まで 29,000円
1億円まで 43,000円
3億円まで、5,000万円ごとに13,000円加算
10億円まで、5,000万円ごとに11,000円加算
10億円超は、5,000万円ごとに 8,000円加算



(財産の価額の算定例)
遺言の場合は、相続人、受遺者毎に価額を算定して合算します。不動産は、固定資産評価額を
基準に評価します。
・ 相続、遺贈額合計が1億円に満たないときは、11,000円を加算します。
・ 以上のほか、公証人が病院等に出張して公正証書を作成するときは、目的価額による手数料が
5割増しになり、規定の日当・旅費が別途かかります。


せめてこれだけは!

会社への貸付金

中小法人の社長の多くが、会社に対して、社長個人のお金を貸しているという実態があります。
この会社にとっての借入金は、社長個人から見たら「貸付金」という債権(財産)になります。

会社に貸し込んでいるお金が3,000万円あったとすると、これは預貯金と同様に相続財産となって
しまいます。つまり、相続税の課税対象になるということです。適用税率30%の場合ならば、900万円の
相続税がかかることになります。

それでは、この会社への貸付金をなくす方法はあるのでしょうか。

返済ができれば、もちろんなくなります。

しかし、会社に返済する資金がない場合でも、「債権放棄」や「債権の現物出資」、「借入による返済
等の社長借入を減らす方法が考えられます。

会社が赤字の場合には、債権放棄をして会社に「債務免除益」が立っても、法人税等の負担は生じません。

現物出資の場合には、株価への影響を考慮する必要がありますし、持ち株比率も変わってきます。
試算をしてみなければ分かりませんが、通常は会社に対する貸付金のままで放置するよりも、現物出資により
資本金に振り替えた場合の方が、相続税の課税価額は下がると言えます。

いずれにしましても、それぞれの場合に、税務上の問題が生じる可能性があります。
したがって、自社の場合について、個別に検討する必要があります。

少額の場合は別ですが、会社の貸借対照表の負債の部に、社長からの借入金(「短期借入金」になっている
場合が多いです。)が多額に記載されている場合には、そのまま放置されずに、今後どのように返済するのか。
月々何万円の返済を続けた場合に、どのくらいの期間で返済が終わるのか。
あまりに長期間かかるようならば、債権放棄や現物出資をすることも考慮に入れられたら如何かと思います。

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「役員報酬」 ここが従業員給与とは違います2005年5月号

役員報酬は社員に支払った給料とは違って、税務調査で問題点を指摘されやすい事項です。支給額
そのものが、高すぎると言われることもありますし、支払の仕方によっては、会社が役員報酬として経理処理して
いても、「これは、役員賞与ですから、損金不算入ですね。」と言われて揉めることもあります。

そこで、今回は、税務調査で否認を受けないための役員報酬の決め方と支給の仕方についてまとめてみました。

役員報酬が税務上、問題となりやすい理由

それは、役員報酬ならば損金(税務上の経費)になるけれども、役員賞与となると損金にならないからです。
その上、役員報酬と役員賞与の区分が会社の認識と税務署の認識とで異なるから面倒なのです。

役員報酬は、適正な額であれば全額損金算入できるのですが、不相当に高額だと認定されるようなことがあると、
その高額な部分が役員賞与として損金不算入(税務上の経費にならないこと)になってしまうのです。

では、不相当に高額な役員報酬というのは、具体的にはいくらなのでしょうか。

「○○○万円以上は高額です。」と具体的な数字を上げられないのが困ったところです。
よく言われますが、
「同業他社と比較して・・・。」とか、
「同種の業務を行っている社員と比較して・・・。」とか、
「会社の業績から判断して・・・。」とか。

結局のところ、様々な視点から総合的に判断した上で“不相当に高額か否か。”を判断するとお答えするしか
ないのです。
役員報酬でも役員賞与でも支給を受けた役員本人にとっては、それが所得であることにかわりはありませんから、
支払った会社には源泉徴収義務が生じます。
では、従業員に対する賞与であれば損金算入なのに、
それが、役員賞与となると、損金不算入となってしまうのはなぜなのでしょうか。
それは、会社との契約内容の違いだと説明されています。
つまり、従業員の場合には雇用契約なのですが、役員は委任契約なので、税務上は、役員賞与の支払は利益処分
で行うこととされているというのです。
これは、あまり納得できる説明ではありませんが、法律で役員賞与は損金不算入とされている以上はしかたありません。

結局のところ、役員報酬はお手盛りになりやすく、利益操作に使われやすいことも原因なのではないかと思っています。

役員賞与とされないために、支給方法に気をつけて

役員報酬であっても、その支給の仕方によっては、役員賞与と認定されることがあります。
役員報酬は、原則として、毎月(毎日、毎週も可)定額を支給するものとされています。
したがって、ある特定の月だけ支給額が多い場合や、遡って支給額を増額して、その差額を一括支給したような場合
(定時総会の決議により期首に遡る場合を除く。)には、毎月の決まった金額を超える部分の金額が役員賞与となって
しまいます。役員賞与と認定されないためにも、支給方法に注意する必要があります。

以下に役員報酬と役員賞与の別を具体的な支給方法を例にみてみましょう


3月決算の株式会社の例

@ 定時株主総会で役員報酬を年額3000万円と定め、取締役会で取締役毎に、月額100万円、70万円、50万円と定めて
毎月支給した場合
・・・役員報酬

A 上記の場合で、前期の役員報酬は総枠2500万円、各人毎は80万円、60万円、40万円だったが、定時株主総会で
役員報酬の枠増と各人毎の報酬引き上げが期首に遡って決議され、すでに前期分で支給が行われていた4月分の差額
を5月の支給時に加算して支給した場合。
・・・差額分も役員報酬
(注:遡っての増額が役員賞与ではなく、報酬となる場合は、定時総会での決議により、当期首に遡る場合に限ります。)

B 特定の月だけ(7月だけ200万円等)増額支給した場合
・・・定額分は役員報酬。定額分を超えて増額支給した分は役員賞与

C 月額100万円だった役員報酬を、期末になってから、期首に遡って120万円に増額に、増差額240万円を期末に
一括して支給した場合
・・・一括支給した240万円分は役員賞与

D 半期業績が予定に達せず、低迷していたため、役員は責任をとって、一律1割の役員報酬の引き下げを取締役会にて
決議し、その月より引き下げ後の報酬を支給することとした。
・・・引き下げ前も後も、全額が役員報酬

E 期中に役員報酬を一律20万円引き上げ、2ヶ月後には逆に報酬を20万円引き下げた場合。
・・・20万円×2ヶ月分が役員賞与とされる危険性があります。


期中に役員報酬を増額したり、若しくは減額したりすることは、いかなる場合にも許されないのでしょうか。
定時定額払いを原則とする役員報酬ではありますが、報酬改定の合理的な理由があり、取締役会により決議され、
決議以後の月分より変更が行われた場合には、期中の増額または減額もありうると言えます。

しかし、利益操作の目的による安易な期中増減は役員賞与と認定されるおそれがありますので、避けてください。

気をつけたいこと

資金繰り上、定額の役員報酬が支払えない月があった場合にも、未払計上して、役員報酬はあくまで毎月定額の
計上をするようにしましょう。

みなし役員という考え方があります。登記上の役員ではないからといって、経営に参画しているご子息に賞与を
支給することのないように気を付けましょう。同族会社の社長一族はほとんど役員と同じだと思って、給料の支給の
仕方には注意する必要があります。
詳しくは税理士にご確認下さい。

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役員報酬 2005年4月号

役員報酬、皆さまはどのようにして決めていらっしゃいますか?
「役員報酬はいくら位が妥当なの?」「最適な役員報酬の決め方は?」
今月は役員報酬について考えます。

「役員報酬」と「会社の利益」

中小企業にとって、役員報酬をいくらにするのかということは、会社の利益計画を立てる上で、
大変重要なことです。
業績がある程度一定している会社の場合には、利益予測もつきやすいのですが、業績が変動する
会社の場合には、経営計画をしっかりと立てて、業績予測を行い、役員報酬と会社の利益計画を立てる
必要があります。
役員報酬の金額いかんによっては、会社が赤字になってしまったり、払う必要がなかったような税金を
払うことになってしまったりするからです。

適正な役員報酬額の算定

適正な役員報酬というのはどういうものを言うのでしょうか。

1. 税負担から見た場合
これを、税・社会保険料等の負担の面からとらえた場合には、役員個人の税負担等(所得税・
住民税・社会保険・年金)と法人の税負担(法人税・法人住民税・事業税)とをトータルに考えて、
それが最少負担となる役員報酬額をいう、ということになります。
この役員報酬算定のために、いくつものシミュレーションソフトが発売されているくらいです。

2. 金融機関から見た場合
金融機関から見た場合には、ちょっと違います。融資をしている金融機関から見たら、会社が赤字
では困るのです。会社は適正利益を確保できる範囲で役員報酬を決めて欲しいというのが、融資を
している金融機関の立場なのです。
例えば、役員報酬が2000万円、赤字200万円の会社よりは、役員報酬1500万円、黒字300万円の
会社の方が優良な法人であるということは、どなたも納得されることであると思います。

では、適正な利益とは・・・。

それは、借入金の元本をきちんと返済できるだけの税引き後の利益を言います。より詳しく言えば、
減価償却費分は実際にはキャッシュが会社から出て行かない経費なので、この分は借金返済に
充てられますから、「1年間の借入金の元本返済額−減価償却費」の額の税引き後利益が適正利益
の下限なのです。
銀行の融資姿勢が変わってから、「会社は利益を出さなければいけない。⇒利益を出せる会社に
するにはどうしたらいいか。」と真剣に考える社長が増えていると感じます。利益の出ていない決算書で
融資をして貰うのは厳しいという現実が、社長の意識を変えてきているように思います。

3.キャッシュフローから見た場合
税負担の面から最適役員報酬額を算定した場合の落とし穴があります。それは、はたして支払い
原資のキャッシュが会社にあるかどうかということです。会社にお金がなければ、現実には役員報酬を
支払うことができません。「役員報酬/未払金」という仕訳が積み重なるだけです。
会社のキャッシュフローを無視して役員報酬額を計上したとしても、それは絵に描いた餅になって
しまうことも多いのです。

4.経営から見た場合
会社経営の視点から見た場合には、会社の内部留保が多く、無借金経営の会社が理想です。
しかし、設備投資の資金まで、借入れをしないでまかなうというのはかなり無理がありますから、
まずは、運転資金を内部留保でまかなえることを目標にされるとよいと思います。
そのためには、「内部留保ができるような利益を会社が残せる。」という視点も考慮に入れて
役員報酬も含めた利益計画を作成する必要があります。
会社経営の姿はやはり社長の考え方を反映したものとなっているのです。

5.税務から見た場合
税務の視点からみた適正な役員報酬とはどのようなものをいうのでしょうか。税務調査で否認
されないためには、どのようなことに注意をする必要があるのでしょうか。

否認を受けないための注意点

1. 同業他社と比較して不相当に高額でないこと。
2. 定款や株主総会・社員総会等で決議された報酬限度額の範囲内であること。
3. 役員に対する賞与は損金にはならないということ。
4. 登記上の役員と税務上の役員はイコールではないということ。(使用人兼務役員、みなし役員)
5. 現物給与(役員賞与)に注意すること

つまり、常識外に高い報酬(これは会社の規模や利益によると思いますが。)はダメ。
役員報酬は、定時株主総会(定時社員総会)・取締役会で決められるはずだから、その議事録
をきちんと作成して、要求されればいつでも見せられるように保管しておくこと。
定時株主総会・取締役会で決めた役員報酬月額を毎月同額支払うようにすること。もちろん、
資金繰りの関係で未払いになることもあるでしょうが、その場合には、未払金計上をしておくことが必要です。
原則として期の途中で役員報酬額を変更しないこと。(絶対に変更してはいけないということで
はありませんが、期中に上げたり下げたりしますと、最低額を超える部分が役員賞与とみなされて
損金不算入、つまり、税金計算上、経費にならなくなってしまうこともあるからです。)
そもそも役員報酬は、普通の給料と違って、税務上問題となりやすいのです。それは役員報酬が
利益操作に使われやすいこと。赤字法人であっても、源泉税は別であること。役員賞与が損金不算入
であるので、役員報酬が否認され役員賞与と認定されれば、損金不算入となり法人税が課税でき
ること。その一方で、支給を受けた役員個人は、役員報酬も役員賞与も給与所得には変わりはない
ため所得税が課税されること等によると考えられます。
とにかく、役員報酬とは会社経営を株主より委任されたことにより受ける対価なのです。

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税金を払っていないと融資が受けられない?!2005年3月号

確定申告を済ませて、ほっとしておられる方も、「15日まであと○日」と頑張っている方も、
いらっしゃることと思います。面倒な確定申告かもしれませんが、確定申告書のために借入れ
ができたり、できなかったり・・・。今月は確定申告と銀行融資について考えます。


◆不動産を買いたい!

昨年末から立て続けに「不動産を購入したいのだが、どうだろうか。」とのお客様からの
ご相談をお受けする機会が増えました。
お客様からの電話を受けると、私はその物件の内容をお聞きした上で、いくつかの質問を
して重要事項の確認をさせていただいた上で、「それは、なかなか良い物件だと思いますよ。」
と即座に賛成することもあれば、「それは、もう少し検討してみたらどうですか。」と再考を促す
意見を述べさせていただくこともあります。一応、宅地建物取引主任者の資格を持っている
とはいえ、業者さんほどに精通しているわけではありませんから、お客様にもその旨ご説明
させていただいた上で、「もし私だったら・・・。」という視点でお話しさせていただくようにしています。
それはそれとして、 “お買得物件”などというものは、そうそう現れるものでは無いと思って
いますが、何かの拍子にそういう物件の情報を入手することもあるのですね。お客様から
ご相談をお受けしてみて、そう思います。その時に、そのチャンスを手にすることができるか
否かは、即金で支払うことができる場合を除いては、銀行融資が受けられるか否かに
かかっていると言えます。

◆個人 = 法人
融資を申し込むと、銀行から提出を求められるものに、確定申告書があります。
法人での融資申込みの場合でも、会社の決算書3期分の他に、社長個人の確定申告書の
提出も求められます。逆に個人名義で不動産を購入しようと思って、個人での借入れを
申し込んだ場合でも、会社の決算書の提供を求められます。
これは、会社と社長個人とが一体として見られていることの証左と言えます。

◆個人 ≠ 法人

銀行は、融資に際して会社と社長個人とを一体として見るのですから、役員報酬の
額と会社の利益とを合算して見てくれるのかと言えば、そうではありません。
役員報酬が2,000万円で赤字200万円のA社と、役員報酬が1,500万円で黒字300万円
のB社とは同じかと言えば、天と地との開きがあるのです。
「A社は役員報酬を下げさえすれば、黒字だったではないか。」という言い分は銀行には
通じないのです。
銀行の内部事情を推察してみて下さい。不良債権処理、金融再編、リストラ断行等で
人員も大幅に削減されています。支店長さんや副支店長さん以外で、40才過ぎの行員さん
はどのくらいいるのでしょうか。会社と社長個人との関係もしっかりと勘案し、数字に表れない
会社の実力を判断できるだけの経験と知識のある行員さんが、どんどんと少なくなっている
のではないかと危惧しています。
コンピュータに入力した数字から自動的に経営分析を行い、融資の可能性をはじき出す。
コンピュータソフトが、人間の代わりに融資の可否を判断しているなんてことは無いとは
思いますが・・・。
経営分析には、「営業利益率、経常利益率、総資本利益率・・・等」○○利益率で表される
指標が多く存在します。利益が出ていない会社は、その全てがマイナス評価になってしま
うのです。黒字決算の重要性はここにあるのです。
「役員報酬を下げれば・・・」、「500万円もの減価償却費を計上した上での赤字ですから・・・」
等まで考慮してくれないのです。
「それが分かっていたら、対策を立てて、黒字の決算を組んで下さい。」というのが銀行が
会社に求めたいことなのです。


◆融資が受けられる場合と受けられない場合、その違いは?

銀行がなかなか融資をしてくれないと言われる中で、銀行から不動産物件の紹介を
受ける会社もあります。「融資はうちの銀行でしますから、買いませんか。」と。
バブルの時には、これで痛い目を見たという話も耳にしますが、不動産業者さんが
「自分のところにその情報が入っていたら、うちで買いたかった。」という位、お得な情報を
提供されることもあるようです。
そうかと言えば、「利益が少なすぎるから。」ということを理由に、銀行に融資を断られた
のを機に税理士を替えようと思って、今税理士を探しているという方もいらっしゃいます。
融資を受けられる会社というのは、ひと言で言えば、「充分な返済原資がある会社」
ということになります。
借入金の返済は、シンプルに言えば、“減価償却費+税引き後利益”で行います。
従って、“利益が出ている決算書”でさえあれば良いかと言うと、それだけでは不充分
なのです。“元本返済ができるだけの利益”が出ている会社である必要があるのです。
それに加えて、不動産購入の場合には、その不動産自体の担保価値が問題になります。
借地権の物件や建築年の古いマンションなどの購入の場合には、購入物件の担保価値
に問題があるため、担保となる他の物件の提供を求められる場合が多いようです。


◆税金も必要経費と考える!

「うちは、当分借入れをする予定はないから。」と決算にあたってお客様が言われます。
そう言われると、私もそれを是認していました。
しかし、突然、資金が必要になることがあるのです。突然、掘り出し物件が目の前に
現れたり、大きな事業の展開局面が現れたり・・・。そういうときにチャンスを逃がさない
ために、資金調達の道は開いておく必要があると思います。
税金はそのために必要な支出、損金にはならないけれど、事業経営に不可欠は必要経費
なのだという認識を持つべき時期に来ているのではないかと思うのです。銀行の融資姿勢が、
私たちにそれを教えてくれています。


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想いを伝える・会社を伝える2005年2月号

日本の中小企業の6割が今後10年以内に事業承継の問題に直面すると言われています。
年頭にあたって、「幸福な事業承継」について考えます。

中小企業の事業承継は

日本の高度経済成長を支えてきた中小企業の多くが世代交代の時期を迎えています。
すでに円滑な事業承継を済ませている会社も多いと思いますが、今、まさに事業承継の
タイミングを計っているという会社も少なからずおられるのではないかと拝察致します。

創業社長の熱い想いと経営理念があったからこそ、30年もの長きにわたり会社が存続し、
承継の時期を迎えることができたのだと思います。承継ができる会社であるということが、
そもそも魅力のある会社であるということだと思います。

ところで、中小企業の事業承継といえば、やはり社長の子供・娘婿・親戚といった親族に
引き継がれる場合がほとんどであり、M&A(買収・合併)とか、営業譲渡などの例はまだまだ
少ないようです。
つまり、身内で承継できる場合には身内で承継し、それが叶わないような場合に、
やむをえず他の方法を選択するという順番で、承継が行われていると考えられます。
その意味では事業承継は会社の相続とも言えるかもしれません。

事業承継のタイミング

事業承継では、「自社株式の承継」と「経営権の承継」の二つを考えなければなりません。

1.自社株式の承継

承継するタイミングとしては、複数年をかけて徐々に計画的に進める場合と、相続の発生を
受けて一時に行われる場合とがありますが、その割合は、相続を原因として自社株式の承継
が行われた会社を1とすると、複数年にわたって徐々に承継をしてきた会社はほぼその倍に
なります。

これは、バブルによる地価の高騰により、不動産を保有している会社の自社株式の評価額
のアップが中小企業の事業承継を困難にしたバブル時の相続事情が少なからず影響している
のではないかと思われます。

2.経営権の承継

創業社長が経営権を二代目に譲るというのは、そう簡単なことではないと思います。
創業社長には強い自負と会社に対する想い、ご自分の経営方針に対する信念がおあり
のことと思いますから、それを自分の息子とはいえ、他の者に委ねるのは心配で仕方ないと
思います。ましてや親にとって、子供はいつまで経っても子供です。頼りなく見えることもある
かもしれません。

でも、「おっ!息子もなかなかやるな。」と認める部分もだんだん増えてくるはずです。
時代の変化が急で、新しい経営センスが求められる要素が増えているのも事実です。
後継者を選び、事業承継を計画的に進めていこうとする場合には、多くの社長が後継者を
まず会社に入社させて、会社の状況を勉強させ、いろいろな勉強をさせた上で、経営権を譲る
はずです。

会社のことが全く分からない社外の人間に経営を任せるというようなことは、中小企業では
まず考えられないと思います。営業譲渡とか、M&Aとかいうのならもちろん別ですが。

事業承継は第二の創業!

1. 経営センスがある二代目、三代目が新たな事業展開を図って成功した例
以前に岡山に本社のある株式会社サンマルクの話をさせていただいたと思います。
親戚の製菓会社を継いだ社長さんが、焼きたてパンの食べ放題レストランを作って
フランチャイズ化に成功。ついには東証一部にまで上場してしまった会社です。

同じような例は、魅力を失っていた老舗レストランを、新しいメニューと新規に始めた
イタリアンレストランの成功により、10年間で年商を1億7,000万円から9億円にまで業績アップ
させた三代目社長にもみられます。

両者に共通するのは、共に社員がケーキ職人や料理人などの職人であったことです。
職人は特に自分の腕に自負があり、自分の仕事のやり方にもこだわりがあって、
新米の若社長の言うことなど聞く耳を持ちません。
全てを仕切っている番頭の居るような会社に入社してくる後継者にも、同じようなことが言える
かもしれません。

2.二代目社長の信奉者を作る

新社長がこれらの社員を納得させ、その中に新社長の信奉者を作っていくためには、結果を
見せる必要があったというのが両社に共通したことです。それが上手くいったからこそ、成功例
として取り上げられるわけですが、残念ながら、その逆の例もあったはずです。
長年会社に貢献してくれた社員と新社長の確執を避けるために、新会社を設立して息子に
任せるという手法をとる会社もあります。

息子さんが、新しい自分の会社で実績を積み、その実績により、将来二つの会社の社長を
兼ねた事業承継につながる場合もありますし、リスクも分散されるというメリットもあります。
成功も失敗も、勝ち組も負け組もあります。横並びの時代は去って、経営努力は当然として、
その上に経営センスも求められる時代になりました。大変な世の中です。でも資本がなければ
事業の大発展が難しかった旧来に比べて、ネットが生み出す新たなビジネスモデルは、
ある意味で大資本と小資本の垣根を取り払い、ビジネスチャンスを広げたとも言えます。

創業社長さんも何度かの勝負の時をかいくぐって今を迎えていることと思います。
企業経営において、平穏無事は残念ながら望めないのかもしれません。
シビアに数字を積算して、数字で評価することは大切ですし、数字を無視することは危険です。
数字は説得力もあります。
しかし、まだ数字に表れていない現場の変化や社員のやる気、意欲といった社員の人間力を
活かすことが何よりも大切だと思います。新しい時代に対応することが自分では難しいかも
しれないと感じたら、それは事業承継のタイミング。第二の創業を後継者に委ねる時期かも
しれません。

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